【思考実験:既存システムとの統合的活用】
機能分化型連携モデルの実践展開
はじめに
前編・後編を通じて、住民主体性(住民が自分で決める立場)を保障しながら専門職が適切に連携する「機能分化型包括連携モデル」について論じてきました。しかし、この理論的なモデルを実際の地域福祉システムで実現するには、既存の専門機関やネットワークとの統合が不可欠です。
今回は、地域包括支援センター、基幹相談支援センターなどの専門相談機関と社会福祉協議会の連携、さらに地域ケア会議、自立支援協議会などの既存ネットワークとの統合的活用について具体的に提案します。
現在の地域福祉システムの構造と課題
既存システムの現状
現在の福祉システムは、分野別に高度に専門化された機関とネットワークで構成されています:
専門相談機関
- 地域包括支援センター:高齢者の総合相談・支援
- 基幹相談支援センター:障がい者の専門相談・支援
- 子ども家庭総合支援拠点:児童・家庭の相談・支援
- 自立相談支援機関:生活困窮者の相談・支援
地域調整機関
- 社会福祉協議会:福祉コミュニティ、地域福祉活動の推進・住民組織化、住民自治の促進
- まちづくり組織:魅力あるまちづくり、活気のある町おこし、住民自治の促進
ネットワーク会議の例
- 地域ケア会議:高齢者支援のネットワーク
- 自立支援協議会:障がい者支援のネットワーク
- 要保護児童対策地域協議会:児童保護のネットワーク
- 生活困窮者自立支援調整会議:生活困窮者支援のネットワーク
現状の構造的課題
1. 縦割り構造による限界 各分野の専門機関が独立して機能しているため、複合的課題への対応が困難
2. 住民主体性保障の不十分さ 専門職主導の支援が中心で、住民が「自分で決める立場」になりにくい構造
3. 個別支援と地域支援の分離 専門相談機関は個別支援に特化し、地域支援は社協に一任される傾向
4. ネットワーク会議の形骸化 専門職中心の議論で、住民参加や住民主体的な課題解決につながりにくい
思考実験というか思い付き:機能分化型連携モデルの統合的展開
基本的な統合戦略
既存システムを否定するのではなく、機能分化型連携モデルの理念と手法を既存システムに組み込むことで、システム全体を住民主体性保障型に転換することを思考実験してみます!
1. 専門相談機関の機能分化的連携
個別支援ワーカーとしての専門相談機関
地域包括支援センター、基幹相談支援センター、子ども家庭総合支援拠点、自立相談支援機関を「個別支援機能」として位置づけ、以下の役割を担います:
共通の基本機能
- 個人・家族の最善の利益追求
- 専門的アセスメントと直接支援
- クライエントの権利擁護(アドボカシー)
- 分野別制度課題の発見・蓄積・分析・整理
機能分化型連携での新たな役割
- 情報の抽象化・一般化:個別ケースから個人特定要素を除去した課題情報の作成
- 住民主体性への配慮:地域化の際の住民の自己決定権確保
- 分野横断的情報共有:他分野の専門機関との課題情報交換
地域支援ワーカーとしての社会福祉協議会
社会福祉協議会を「地域支援機能」として位置づけ、従来の地域福祉活動推進に加えて以下の機能を強化します:
強化すべき基本機能
- 住民主体性の最優先保障:住民が「自分で決める立場」であることの確保
- 住民起点の課題発見支援:住民の生活実感からの課題発見プロセスの促進
- 分野横断的地域組織化:高齢・障がい・児童・困窮等の垣根を超えた住民活動支援
- 専門機関との架橋機能:住民と専門機関をつなぐ媒介役
概念の整理
地域福祉を効果的に推進するために、専門職の役割を「個別支援ワーカー」と「地域支援ワーカー」に機能分化し、両者が連携して住民の主体性を保障することを目指します。
個別支援ワーカーは、高齢者、障がい者、子ども、生活困窮者など、個人や家族の個別の課題に対応します。専門的なアセスメントを行い、直接的な支援を提供するとともに、クライエントの権利擁護や、制度上の課題を発見し政策提言を行う役割を担います。
一方、地域支援ワーカーは、住民の主体性(自分で決める立場)を最大限に保障することを最優先とし、住民の組織化や環境整備、地域包摂力の向上に努めます。住民の日々の生活実感から課題を発見し、地域全体で解決していくプロセスを支援します。
「双方向位相転換」とコンフリクトの活用
このモデルの核心は、**「双方向位相転換」**という概念です。個別ケースの課題を抽象化・構造化して地域課題へと転換したり、逆に住民の生活実感から個別支援への示唆を抽出したりするプロセスを指します。
しかし、この転換過程では、専門職と住民の間でコンフリクト(対立)が生じます。
- 個別課題から地域課題への転換時:緊急性の認識のズレや、専門的介入の必要性と住民主体性の間の対立などが起こります。
- 地域課題から個別課題への転換時:住民の感覚と専門性の対立、集団的価値と個人的価値の相違、地域の善意と個人のプライバシーの間の緊張などが生じます。
これらのコンフリクトを単なる対立と捉えるのではなく、建設的に活用することで解決策を生み出すことにつなげます。
相互補完による創造的効果
個別支援ワーカーと地域支援ワーカーが相互に補完し合うことで、以下のような創造的な効果が生まれます。
- 相互検証機能:一方的な課題設定を防ぎ、多角的な視点から質の高い課題認識が可能になります。
- 文化的整合性の向上:専門的な支援手法が地域の文化や価値観と融合し、地域に根差した持続可能なシステムが構築されます。
- 住民主体性の相互強化:個別支援と地域支援の両方向で住民の自己決定権が保障され、住民の真の主体性が実現します。
- 包摂的地域づくり:個人の課題と地域の課題を同時に扱うことで、個別性と集団性の両方を尊重した真の地域包摂が実現します。
- 持続可能性の確保:住民の自主的な取り組みと専門職による適切な支援が両立することで、長期的に機能する体制が維持されます。
個別支援と地域支援を分離させるのではなく、両者を不可欠な構成要素として統合し、それぞれの役割を明確にする必要があります。
概念図をAIで作ってみました
思考実験の結果
思考実験の結果としては、理想と現実のギャップをどう埋めるかということについてうまく整理できませんでした。この整理については次回のブログでも継続して続けていきたいと思います。
最後に
今回は、住民が自ら課題を解決していくプロセスを重視する「機能分化型連携モデル」を、既存の地域福祉システムとどう統合させるかについて論じてきました。専門機関が個別支援に特化し、社会福祉協議会が地域支援を担うという機能分化を進めつつ、それらが有機的に連携することで、住民の主体性を保障し、複合的な課題にも対応できるシステムへと転換できる可能性を示しました。
理想の地域福祉へ向けて
このモデルは、既存のシステムを根本から否定するものではありません。むしろ、それぞれの機関が持つ専門性を最大限に活かしつつ、互いの役割を明確にすることで、より効率的で、何より住民にとって本当に役立つ福祉を実現しようとするものです。地域ケア会議や自立支援協議会といった既存のネットワークも、専門職が住民の声を吸い上げ、地域全体で課題解決に取り組むための重要な場へと進化させられます。
次の一歩を踏み出すために
理論的な思考実験に過ぎないと思う人もいるかもしれません。しかし、このモデルが目指すのは、専門職が一方的に支援を提供するのではなく、住民が「自分で決める立場」として、自らの地域をより良くするためのプロセスに主体的に関わる社会です。それは、誰もが孤立せず、安心して暮らせる地域づくりの第一歩となるはずです。
このブログが、それぞれの地域で活動する専門職や住民の皆さんが、より良い地域福祉のあり方を考えるきっかけとなれば幸いです。一緒に、住民主体の福祉社会を築いていきましょう。
コメント