「身寄りがない利用者の入院が決まったけれど、身元保証人がいなくて病院から対応を求められている…」
「ヤングケアラーやダブルケアと思われるご家庭を発見したが、介護保険の枠組みだけではどうにもできない…」
「葬儀や遺品整理といった死後事務、どこまでケアマネジャーや事業所が関わるべきなのだろうか…」
日々の現場で、このような「既存の制度や分野の狭間」に落ちる課題に直面し、頭を悩ませていませんか?
家族機能の低下や地域のつながりの希薄化に伴い、高齢・障害・児童・困窮といった単一の制度だけでは解決できない「複雑化・複合化した課題」が急増しています。
本記事では、社会福祉法第106条の3に規定された「包括的な支援体制(重層的支援体制)」と、第107条に基づく「市町村地域福祉計画」の構造を紐解きます。さらに、先進自治体(滋賀県栗東市・兵庫県明石市)の取り組みを徹底分析し、ケアマネジャー・医療機関(MSW)・社会福祉法人が明日から使える「具体的実務ヒント」を分かりやすく解説します。
制度の壁や行政の縦割りに悩む支援者のみなさまが、孤立せずに地域でチームを組むための道筋を一緒に見ていきましょう。
1. なぜ今「ケアラー支援・身元保証・死後事務」で現場が疲弊しているのか?
単一制度の枠を超えた「生活の複合課題」の現実
従来、日本の社会福祉制度は「高齢」「障害」「児童」「生活困窮」といった対象属性ごとに専門化され、それぞれの制度枠組みの中で支援が提供されてきました。しかし、現代の地域社会では「8050問題」や、介護と子育てが同時に発生する「ダブルケア」、家族のケアを一人で担う「ヤングケアラー・ビジネスケアラー」など、複数の課題が絡み合うケースが日常化しています。
特に現場を疲弊させているのが、「身寄りがない高齢者の増大」に伴う入院時の身元保証や死後事務(葬儀・納骨・遺品整理など)の対応です。これらは介護保険の給付対象外でありながら、解決しなければ本人の安心した生活や医療受診が成り立たないため、現場のケアマネジャーや病院MSWに「しわ寄せ」として押し寄せているのが実情です。
社会福祉法第106条の3が示す「包括的支援体制」の必要性
こうした分野別・縦割り支援の限界を受け、社会福祉法が改正され、第106条の3において「包括的な支援体制の整備」が市町村の努力義務として位置付けられました。
この包括的支援体制は、以下の3つの機能を一体的に推進することを目的としています。
【包括的な支援体制を支える3つのコア機能】
1. 属性を問わない相談支援(断らない相談)
└ 世代や障害の有無にかかわらず、どんな困りごとでもまず受け止める
2. 社会とのつながりを創出する参加支援
└ 本人が社会や地域とつながり直す機会をつくる
3. 人と資源をつなぐ地域づくり支援
└ 既存のフォーマルサービスだけでなく、インフォーマルな支え合いの場を育てる
これは単に新しい窓口を一つ増やすという意味ではありません。分野を超えた「多機関協働」によって、重層的に本人や世帯を支える現場の実践的フレームワークなのです。
【実務ヒント】一事業者で抱え込まない!初期スクリーニングとトスアップの考え方
現場のケアマネジャーやMSWが最も避けるべきなのは、「自分が対応しなければこの人が困るから」と、権限外の身元保証や無償の死後事務を一事業所で抱え込んでしまうことです。
法第106条の3に基づく包括的支援体制が整備されつつある今、支援者に求められるのは「抱え込み」から「公式な多機関協働の場へのトスアップ」への思考転換です。
対応のコツ:
生活課題の「仕分け」: 介護保険・医療保険で対応できる部分と、制度外の課題(権利擁護・金銭管理・身元保証など)を明確に分離・可視化する。
公式な相談ルートの活用: 複合課題と判断した時点で、地域包括支援センターや自治体の重層的支援体制の統括窓口(多機関協働事業)へ「初期アセスメントシート」を添えて公式に支援要請を出す。
リスクの共有: 身元保証書のサインを迫られた際は、「個人・一事業者として保証人になることは規定上できない」ことを毅然と説明しつつ、本人に代わって緊急連絡先や支払い能力の担保(口座振替手続き等)を提示する。
2. 先進自治体事例に見る「光と影」:栗東市と明石市
包括的支援体制の構築に向けて、全国の自治体で多様な取り組みが進められています。ここでは、代表的な先行事例である滋賀県栗東市と兵庫県明石市の取り組みを取り上げ、現場視点からのクリティカル(批判的・多角的)分析を行います。
栗東市(滋賀県):地域福祉計画を軸とした盤石な「重層的支援体制」モデル
滋賀県栗東市は、重層的支援体制整備事業を早期から導入し、社会福祉協議会(社協)との強固な連携のもとで「断らない相談体制」を地域に根付かせてきた自治体として知られています。
栗東市の強みは、後述する「市町村地域福祉計画(法第107条)」を基幹とし、社協の「地域福祉活動計画」と密接に連動させている点にあります。行政と社協、地域住民、医療・介護事業者が定例の「多機関協働会議」を通じて顔の見える関係を構築しており、複合課題が発生した際も相談のバトンパスがスムーズに行われる土壌が整っています。
明石市(兵庫県):クリティカル分析〜スピード感ある施策展開の「光」と現場負担の「影」〜
一方、兵庫県明石市は、全国に先駆けて「ケアラー支援条例」を制定したほか、身寄りがない人への権利擁護支援(あかし寄りそい相談ヤード等)や独自の福祉施策をトップダウンかつスピード感をもって展開してきました。
この明石市の取り組みについて、現場の実務者視点から「光(評価できる点)」と「影(構造的課題)」の両面を客観的に分析します。
【明石市モデルのクリティカル分析】
◆ 光(評価できる点)
・社会的認知度の飛躍的向上:ケアラーや身寄りなし高齢者の課題を可視化し、公的支援の対象として明確にした。
・独自の権利擁護枠組みの創出:成年後見制度の利用促進や独自の寄り添い支援など、市民の権利を守る強い意思表示を行った。
◆ 影(現場視点での課題と構造的リスク)
1. 理念先行と現場への「丸投げ」リスク
「断らない」「全人支援」といった高い理念を掲げる一方、行政の初期相談窓口が受け止めた課題が、十分なリソース・予算を伴わずに現場(ケアマネジャー、地域包括、社協)へ下ろされ、現場の負担が増大する傾向が生じやすい。
2. 民間身元保証ビジネス・医療現場との境界線の限界
自治体が条例や支援方針を作っても、病院や施設が求める「身元保証人(賠償責任やご遺体の引き取り手)」の役割を行政が直接引き受けることはできず、結局は民間事業者との契約や個別の調整に委ねられるという限界がある。
3. 庁内縦割りの調整不足による「運用の歪み」
高齢・障害・児童・困窮といった行政内部の既存部署間の調整が追いつかないまま新たな条例や事業が動くことで、現場の専門職が行政の「どの窓口に相談すべきか」迷いが生じるケースがある。
【実務ヒント】自治体施策の「限界点」を見極め、現場と利用者を守る境界線
明石市のような先進的な条例や施策がある自治体であっても、「行政がどこまでを担保し、どこからがケアマネ・MSW・事業者の役割なのか」の限界点を冷静に見極めることが重要です。
専門職としての自衛と協働:
自治体にケアラー条例や身元保証のガイドラインがある場合は、それを「行政へ支援を要請するための根拠文章」として最大限に活用する。
「条例に書かれているから行政がなんとかしてくれるはず」と過度に期待するのではなく、行政がカバーできない領域(死後事務の実務や連帯保証)については、成年後見制度の保佐・補助・後見人や法人後見、信頼できる専門職団体・NPO等の権利擁護インフラを組み合わせて防波堤を作る。
3. 実務ですぐ使える!ケアマネ・医療機関(MSW)・社会福祉法人のための具体的連携モデル
ここからは、現場の3大難局である「身元保証」「死後事務」「ケアラー支援」について、ケアマネジャー、病院MSW、社会福祉法人が具体的にどう連携すべきか、実務モデルを提案します。
【支援課題ごとの多機関協働連携モデル】
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│ 支援課題 │ 現場専門職(ケアマネ・MSW)の役割 │ 社会福祉法人・社協・自治体の役割 │
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│ 入院手続き・│・病院の保証人要求に対しガイドラインを提示 │・権利擁護センター等による成年後見制度の利用申立 │
│ 身元保証 │・支払い能力・連絡先の整理と意思決定支援 │・自治体による「身元保証に頼らない支援ガイドライン」策定│
├─────────────┼─────────────────────────────┼─────────────────────────────┤
│ 死後事務・ │・生前の意向(葬儀・納骨等)のアセスメント │・社協等の日常生活自立支援事業~後見への接続 │
│ エンディング│・契約権限がないことを医療機関へ事前共有 │・社会福祉法人の「地域貢献事業」としての死後サポート│
├─────────────┼─────────────────────────────┼─────────────────────────────┤
│ ケアラー支援│・高齢者介護の場面でのヤングケアラー発見 │・重層的支援体制(多機関協働)による全庁連携 │
│ (ダブルケア等)│・介護保険以外の世帯全体の課題の可視化 │・児童・障害・教育部署とのケース会議開催 │
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【入院手続き・身元保証】厚労省ガイドラインの活用と「保証人なし」への実務対応
厚生労働省の「身寄りがいない方への支援や身元保証等に関するガイドライン」では、「身元保証人がいないことだけを理由に入院・入所を拒否してはならない」ことが明確に示されています。
病院MSWとケアマネの実務ポイント:
保証人の役割を分解する: 病院が求める「保証人」の意図(①緊急連絡先、②支払い能力の確認、③身渡しの受け取り、④医療行為の意思決定)を分解して整理する。
代替手段の提示: ケアマネ・MSWは、保証人にサインするのではなく、「緊急連絡先としての居宅事業所・包括の連絡先」「介護保険料・医療費の口座振替手続き」「本人事前の意思表明書(ACP)」を提示し、病院側の不安を解消する。
【死後事務・エンディング】社会福祉法人・社協の地域貢献事業と成年後見の接続
死亡時の葬儀・納骨・部屋の引き渡しなどの「死後事務」は、委任契約や成年後見(死後事務許可)がなければ、ケアマネ個人や単一事業所が勝手に行うことは法律上できません。
社会福祉法人・社協の実務ポイント:
日常生活自立支援事業から成年後見へのスムーズな移行: 金銭管理支援の段階から、身寄りがない方の将来の死後事務を見据え、弁護士・司法書士・社協(法人後見)等への接続を早期に計画する。
社会福祉法人の「地域貢献事業」としての活用: 地域福祉のインフラとして、特別養護老人ホーム等を運営する社会福祉法人が、地域密着型の「エンディングサポート事業(生前契約〜死後事務の低価格提供)」を独自事業として組み立てる取り組みが広がっています。
【ケアラー支援】高齢介護の現場で発見した複号課題を多機関協働へつなぐルート
居宅介護支援で高齢者のケアプランを作成している際、「同居する孫が不登校で介護を行っている(ヤングケアラー)」「障害を持つ子と高齢の親の双方が支援を必要としている(8050問題・ダブルケア)」という場面に出会うことがあります。
現場からのアプローチ:
ケアマネジャーは「介護保険の対象(要介護者)」だけに目を向けるのではなく、世帯全体の生活課題をアセスメントシートの自由記述欄に記録する。
自治体の「重層的支援体制(多機関協働事業)」の窓口へ連絡し、「高齢福祉部門×児童福祉部門×障害福祉部門」が合同で参加する「個別支援会議(ケース会議)」の開催を依頼する。
4. 「市町村地域福祉計画(第107条)」を現場の味方にする方法
全体設計図(地域福祉計画)×個別計画の参画という二層構造のメカニズム
自治体が包括支援体制を動かすための土台となるのが、社会福祉法第107条に基づく「市町村地域福祉計画」です。
添付資料『包括的な支援体制』で解説されている通り、地域福祉計画と各分野の個別計画(高齢者福祉計画、障害者福祉計画、子ども・子育て支援計画など)は、以下のような「二層構造の連動メカニズム」になっています。
【計画の二層構造と連動メカニズム】
┌─────────────────────────────────────────────────────────┐
│ 市町村地域福祉計画 (社会福祉法第107条) │
│ 【全体設計図(グランドデザイン)】 │
│ ・縦割り行政を解消するための全庁的枠組みを提示 │
│ ・ケアラー支援・身元保証・複合課題への基本方針を明記 │
└────────────────────────────┬────────────────────────────┘
│ (波及・参画)
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▼ ▼ ▼
┌──────────────┐ ┌──────────────┐ ┌──────────────┐
│高齢者福祉計画│ │障害福祉計画 │ │子ども計画 │
└──────────────┘ └──────────────┘ └──────────────┘
【個別福祉計画】:上位計画の全体設計図を受け、各分野の施策内に
「分野横断的取り組みへの積極的参画」を位置付ける
地域福祉計画が「分野横断の全体設計図」を示し、各個別計画がそこへの「参画」を明記して初めて、全庁的かつ実効性のある支援体制が機能します。
計画策定の「対話プロセス」を活用し、現場の窮状を政策に反映させる
地域福祉計画は、単に完成した計画書(冊子)そのもの以上に、策定における「対話プロセス」に大きな意義があります。
策定委員会や市民ワークショップを通じて、行政の複数部署(高齢・障害・児童・困窮)、社協、NPO、そして医療・介護の現場専門職(ケアマネ会・MSW会など)が膝を突き合わせて話し合う「過程」そのものが、縦割りを打破するネットワークを形成するためです。
また、行政単独で地域福祉をデザインすることには構造的な限界があります。予算や制度の枠組みに縛られやすい行政に対し、実際の地域課題を発見し、柔軟な「互助・共助」を動かす現場の知見や動力が不可欠だからです[cite: 3]。
【実務ヒント】地域ケア会議・パブリックコメントで「動く体制」を引き出すコツ
ケアマネジャーや医療機関、社会福祉法人が、地域の福祉計画や体制整備に自分たちの声(現場の窮状)を届けるための具体策は以下の通りです。
「事例」を「地域課題」へ昇華させて届ける:
地域ケア会議や多機関協働会議の場で、「〇〇さんのケースが大変だった」で終わらせず、「身寄りがない方の入院保証や死後事務で、年間〇件の事業所が行き詰まっている。これは個人の問題ではなく、地域の権利擁護システムの不備である」と集計データや共通課題として提示する。
パブリックコメントや策定委員会への積極的参画: 地域福祉計画の改定時期(多くは3〜5年周期)に合わせて、ケアマネジャー協会や社会福祉法人連絡会などの「団体名」で、ケアラー支援の体制化や身元保証ガイドラインの策定を求めるパブリックコメントを提出する[cite: 3]。
5. まとめ:制度の壁を越え、現場の専門職が孤立しない地域共生社会へ
ケアラー支援、身寄りがない高齢者の身元保証や死後事務——。
これらは、一人のケアマネジャー、一つの病院、一社の社会福祉法人だけで背負いきれる問題ではありません。
最後に、本記事の要点を再整理します。
【本記事のまとめ】
1. 複合課題(ケアラー・身元保証・死後事務)は一事業所で抱え込まず、社会福祉法第106条の3に基づく「包括的支援体制(多機関協働)」へ公式にトスアップする[cite: 1, 2]。
2. 先進事例(栗東市・明石市)の分析から、高い理念(光)だけでなく、行政の丸投げリスクや現場の負担(影)を冷静に見極め、現場と利用者を守る「境界線」を整理する[cite: 3]。
3. 制度の壁を破るバックボーンとして「市町村地域福祉計画(107条)」を活用し、計画策定の対話プロセスに現場の声を届けて全庁的な体制づくりを促す[cite: 2, 3]。
制度や行政の壁、職種間の溝が高く見えたとしても、私たちが日常の実務の中で一歩踏み出し、小さな「対話」を重ねていくことで、地域全体で支え合う包括的な仕組みは必ず作っていけます。
現場で葛藤しながらも、目の前の利用者の暮らしを支え続ける皆さまの一歩を、心から応援しています。
【参考文献・公的資料】
厚生労働省(2023)『地域共生社会実現に向けた「地域づくり」への取組に関する調査研究事業最終報告書』
厚生労働省(2021)『包括的な支援体制の整備が市町村の努力義務になっているなんて知らなかったという人へのガイドブック〜対話と協働による学び合いにより、“本人・世帯中心”の支援を取り戻す〜』
厚生労働省(2019)『身寄りがいない方への支援や身元保証等に関するガイドライン』


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